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覚書で天国の職場
2007/06/26 |
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■たばこ吸いながら入力 来訪者きても昼休み
「杓子(しゃくし)定規でなく、親身になって行うこと」「言葉遣いも懇切丁寧にすること」−。 社会保険庁 が5月31日、全国の 社会保険 事務局長あてにこんな内容の文書を通達した。年金記録紛失問題で 社保庁 への風当たりが強まる中、 社会保険 事務所に殺到した年金相談者への職員対応要領だ。何を今さら…という感がぬぐえないが、それほどこれまでの 社保庁 の対応はひどかった。そんな 社保庁 的体質の原点と、それが放置され、第2、第3の歪(ゆが)みへと連鎖していった構造を探った。
「われわれ(職員)はたばこを吸いながらの入力。疲れたらコーヒー飲んで一服。パソコン1つも1人で満足に扱えず、雑談したりいろいろ。昼休みも、電話がかかってきたり来訪者がきても休憩している」
ほとんどの 社保庁 職員が加入する全国 社会保険 職員労働組合(旧自治労国費評議会、約1万1000人)の九州地区の幹部が平成13年、職場の現状を記したメモだ。
このメモが残された経緯は不明だ。労組側は「自己批判の文書だ」と釈明するが、まるで天国のような「職場環境」を誇る文書にもみえる。
こうした職場環境が現実化した原点は、昭和54年3月に労組と 社保庁 が結んだ「覚書」にある。その後、平成16年までに双方がかわした文書は、A4判で計105ページ。昭和54年の「端末機の操作にあたりノルマを課したり、実績表を作成したりしない」、平成14年の「昼休みの窓口対応は職場で対応できる必要最小限の体制で行う」−など勤務をできるだけ軽減しようとする表現が目立つ。時間配分や仕事量も具体的な数字で制限。「コンピューター端末の連続操作時間は50分以内(のちに45分以内)とし、15分の操作しない時間をつくる」「1人1日のキータッチは5000以内とする」ことなどが取り決められた。
これに関する労組側の言い分はこうだ。「端末操作に対する健康への影響を考え、こういう基準になった」。確かに、昭和60年の労働省の指針でも労働時間と休憩に関する同様の基準がある。
しかし、それは日本人の多くがコンピューターに不慣れだった時代の産物でもある。その後、人々はコンピューターに慣れ、機器そのものも格段に使いやすく進化し、入力作業も楽になった。にもかかわらず、つい最近までこの覚書が有効で、改定されてこなかったという点に、 社保庁 の不作為責任がある。
すでにファクス、パソコンが「(官庁でも)かなり一般的になった後」(他省庁の中堅)の昭和63年には、「ファクシミリは勤務時間外や大量業務に使用しない。労働強化にならないよう、十分配慮する」▽平成15年に「パソコン導入は人員削減や労働強化に繋(つな)がらないものであること」も労使双方で確認された。これらを含め、「労働強化に繋がらないものにすること」という覚書や確認事項は計35件にのぼる。
ようやく平成17年までに、こうした覚書や確認事項はすべて破棄された。しかし、それまでの間、 社保庁 内では、さまざまな機器が導入されようとも、仕事が変化しようとも、この覚書だけは更新され続けていった。
■いびつな人事システムはびこる
社保庁 的体質の原点ともいえる、これらの覚書が交わされたのは、昭和55年の年金記録システムのオンライン化がきっかけだった。
「長年の懸案だったオンライン化を進めるためにやむを得ず(覚書を)結んだ」
昭和55〜56年に 社保庁 長官を務めた石野清治氏は、最初の覚書を結んだ前任の八木哲夫元長官(故人)から、こう引き継ぎを受けたという。
当時、 社保庁 の労組の1つ、「旧国費評議会」が属していた自治労はオンライン化に強く反対していた。国と地方の行政機関がラインで結ばれれば、「地方行政が国の下請けになる」(自治労幹部)といった政治的な アレルギー 反応を起こしていたためだ。覚書には、とりあえず、労組のこうした反発を沈静化する意味合いがあった。 社保庁 は、覚書を餌にしてオンライン化を労組に納得させようとしたわけだ。
実は、公務員の労組に協約締結権はない。このため、覚書は法的には何の効力もない。にもかかわらず、内容の見直しもされないまま最近まで放置されたのはなぜか。
その原因の一つだと指摘されているのが、 社保庁 のいびつな人事システムだ。
社保庁 の巨大組織を束ねるのは30人ほどの 厚生労働省 から出向するキャリア組(国家公務員I種試験合格者)。おおむね2年交代で本省に戻るため、庁内では「お客さん」扱いされる。それに次ぐ地位にいるのが、 社保庁 採用のノンキャリア組。さらに、その下で実際に各地の 社会保険 事務所で年金の徴収や給付の裁定などを行う一般職員は都道府県単位の採用だ。
この「三層構造」を超えた人事交流はほとんどなく、出世できるのは「最上階」のキャリア組だけ。「多少頑張っても出世できないため、職場環境や小さな権益に喜びを見いだすしかない」( 社保庁 勤務経験のある 厚労省 OB)という空気が組織のよどみを生む。逆に、出世コースに乗っているキャリア組は、年金の実務にはほとんど無知だ。
歴代 社保庁 長官は仕事ぶりも変だった。
「なんで長官が来ないんだ。君はそんなに偉いのか」と、大臣室に呼びつけてもなかなかやって来ない 社保庁 長官を叱責(しっせき)したのは、平成13年から16年まで厚生労働相だった坂口力氏。しかも、せっかく呼びつけても「長官は年金問題など肝心なことはあまり知らなかった。『とにかく仕事は現場に任せろ』というような雰囲気があった」という。
坂口氏は、「現場の職員は突合できないデータがあることに気づいたはず。それを上へ上へと報告をあげていく態勢はなかった」という。三層構造の風通しの悪さこそが、年金記録紛失を今日まで放置した元凶だというわけだ。
さらに現場職員が平成11年度まで「地方事務官」という特殊な国家公務員だったことも、上下の意思疎通を欠く原因となった。「地方事務官」は給与は国費から支給されるのに、指揮系統は都道府県の知事部局のもとにあるという変則的な立場。国と地方のどちらも指示を出しづらく、イソップ童話になぞらえて「コウモリのような存在」(佐々木典夫元 社会保険庁 長官)ともいわれた。
甘い労使慣行と三層構造−。そんな歪(ゆが)んだ組織は、やがて国民から預かった巨額の年金保険料を年金以外の目的に使うようになっていく。 |
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